
15人の作家さんによる「短編ベストコレクション」
読了後に振り返って面白かったなと印象に残ったのは、奥田英朗「ファイトクラブ」リストラ勧告にあらがって、工場の警備員となったおじさん4人が、夕方になると現れるボクシングのコーチとともに気持ちよく汗をかき、徐々にボクシングが様になり・・・良い結末。
桜木紫乃「春雷」少し昔の北海道が舞台。10人兄弟の下から2番目のマツと、末っ子の弟の忍。なで肩で細面、色白で柳腰で誰もが振り返るほど美しく、上方舞いの名取として町でも評判の忍は姉の自慢の弟。ふたりにそれぞれ縁談話が持ち上がり・・・悲しい結末。雪解けの水音。日本海に落ちる雷。描写が美しい。
村田沙耶香「変容」40歳になり、親の介護もひと段落し、ファミレスでパートを始めた真琴。大学生アルバイトの高岡くん、雪崎さんと親しくなるが、「怒る」「むっとする」「かっとなる」という感情を知らない。昔教科書で見た、昔の映画で見たことがあるが理解できないという。人間の性格にも流行があるということだが・・・

東野圭吾「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」
2021年3月、郊外の町で元中学教師だった父親が殺害された。中学時代の同窓会開催目前の出来事だった。警察から連絡を受けて東京から駆け付けた神尾真世。父親の弟にあたる叔父の武史。二人がタッグを組み神尾栄一を殺した犯人を捜しだす。コロナ禍において打撃を受けた観光業の話題なども織り込まれている。
叔父の武史はかつて海外でも活躍したマジシャンという設定。ちょっとしたすきに警察のスマホを拝借して情報を得たり、ささやかな痕跡から物事を推理していく。
同級生の中に犯人がいる可能性がある。学生時代はジャイアン的な存在。のび太的な存在など、ドラえもんが話題に含まれているのだが、なんだか東野圭吾さんにしては新鮮。最後は疑わしい人みんなを集めて「犯人はお前だ!」的な。サスペンス劇場的で新鮮。

森見登美彦「四畳半タイムマシンブルース」
下鴨幽水荘に下宿するわたしと、他人の不幸をおかずにして御飯が三杯食べれるという妖怪のような見た目の小津。師匠と呼ばれる、下鴨幽水荘のヌシの樋口清太郎。映画サークル「みそぎ」に所属する明石さん。他作品でも活躍していたメンバー。さらにそこに映画サークルのメンバーたちが加わり繰り広げられる、2日間のドタバタな出来事を描いた物語。
タイムマシンの出現によって、過去(1日前)の不幸な出来事を解決しようと目論むメンバー。現在と過去との齟齬が生じることで世界消滅を危惧するメンバー。次々と襲い掛かる、苦難トラブル迷惑行為をなんやかやと乗り越えていく展開が面白い。ただ、面白かったで終わってしまう物語。読書デビューに向いているかも。